1.スナガニ類

 ハクセンシオマネキは,スナガニ科シオマネキ属のカニです.スナガニ科のカニには,他にコメツキガニ・チゴガニ・ヤマトオサガニなどがいます.これらのカニの多くは干潟に巣穴を掘って生活しています.

コメツキガニは,砂っぽい干潟に生息する大きさ1cmほどのカニです.ハサミを上下に振る様子が米を突いているようなので,コメツキガニと名付けられました(昔は収穫した米を一升瓶などに入れ,棒で突いて籾ガラを取り除いていました).

チゴガニは,やや泥っぽい干潟に住むカニで,大きさは1cm未満です.小さいので,稚児ガニと名付けられました.ハサミを振る様子が腕を上下に振って体操をしているようなので,人によっては「体操ガニ」と呼んでいます.

ヤマトオサガニは,泥っぽい干潟に住む大きさ3cmほどのカニです.スナガニ科のカニでは比較的大きいので,「大和長蟹 やまとおさがに」と名付けられました.からだが四角なので,「下駄ガニ げたがに」と呼ぶ人もいます.

ハクセンシオマネキと同じシオマネキ属のカニには,シオマネキがいます.日本にシオマネキ属のカニは10種類いますが,日本本土に生息するのはハクセンシオマネキとこのシオマネキだけです.他の8種類のシオマネキ類は沖縄諸島に生息しています.シオマネキ属の雄は,どの種類も巨大ハサミを持っています.

シオマネキは,ヤマトオサガニ同様泥っぽい干潟に住んでいますが,ヤマトオサガニは比較的平らで,潮が引いても水が残るような場所を好むのに対して,シオマネキは起伏の多い場所を好むというように住み分けています.シオマネキは,日本に生息するスナガニ類の中では最大の種で,大きな個体は体長4cmにもなります.有明海や八代海の湾奥部に流入する筑後川や緑川,氷川の河口のヨシ原の周辺には,多くのシオマネキが生息しています.

ところで,「潮招き」という名前は,「ハサミを振る様子が,早く潮が満ちてくるように,海水を呼んでいるよう」ということで名付けられたようです.ただ,実際にオスがハサミを振るのは,このあと説明するように,「潮を招く」ためではなく,「メスを招く」ためです.したがって,「潮招き」ではなく,「雌招き」と言った方がいいのかもしれません.

採餌中のメスのハクセンシオマネキ(目次へ)